open! architecture

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東京大手町にある「JA(農協)ビル」は、建築家 佐藤武夫によって設計され1965年(昭和40年)竣工した建築である。長野市民の僕たちには馴染み深い「長野市民会館」(昭和36年竣工)も現存する佐藤武夫の代表作のひとつである。その他の作品には早稲田大学大隈記念講堂などがある。その佐藤武夫に師事した建築家 宮本忠長の事務所に3年前まで在籍していた僕としては、勝手にその作風に親近感を持っているのだが、その現存する数少ない佐藤武夫の作品の中の「JAビル」は来年3月に取り壊される事が決定されている。

話は変わって2011年、海外から多数の建築プロフェッショナルが訪れる「UIA=世界建築家会議東京大会」が開催される。この世界的な建築イベントを数年後に控え、日本建築の対外的プロモーションや文化交流を促進するため様々な情報提供や交流の機会が提供されている。 その取り組みのひとつとして、平素なかなか見ることのできない多くの建築物を年1回公開し、多くの方々に訪ねてもらおうというイベントが行われている。名付けて、「open! architecture 建築のまち・東京を開放する」である。

今回、このイベントで「JAビル」が見学できる事を知り、内部見学はこれが最後になるということもあって、先日このイベントに参加してきた。当日「JAビル」の見学には約20名が集まり、先ずはJAビル管理会の方からのこんな挨拶からはじまった。

「普通の事務所ビルですから、そんなに見どころがありますかどうか。。。」

いきなりテンションが下がる。
すかさず、建築史家の倉片俊輔さんが、“見どころ満載ですよ”とフォローを入れてなんとか場を持ち直し、当時の市街地での法規制や経済状況、建物工法や材料などの説明を受けながら各階を廻った。このビル内部での最大の見どころは9階にあるJAホール。客席両側の壁は杉板型枠によるコンクリート打ち放し部分とビシャンで仕上げられた六角形のパターンが印象的なホールだ。冷たい表現になりがちなコンクリート打ち放しに手仕事の跡を残し、同時に音響も考慮した六角形で埋め尽くされた壁は、機能的でそのデザインを主張し過ぎる事もなく、このホール最大の目的である会議やセミナーの成功をそっと見守っているかのようだった。

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でも、僕がこのビルのデザインでハッとさせられたのは別のところにあった。それは、廊下の壁にたたみ込まれている防火扉の色である。白い廊下の壁に防火扉の色が赤く塗られている。しかも非常口(潜り戸)が白抜きされているのである。防火扉の上部には白抜き文字で大きく“非常扉”と書かれている。竣工当初からこの色かどうかは定かではないが、最近のオフィスビルや公共建築などを思い出してほしい。たいがいこうした非常時に機能する部分は巧みに隠されたり、目立たなくされたりしているものだ。設計者が隠すことを意識しない場合でも、ほとんどが無意識のうちに廊下の壁と同色の色を塗ってしまっているのではないだろうか。火災時に煙に巻かれながら、非常口を探すことは容易ではないだろう。一面白い煙の向こうに見える赤い防火扉と白抜きの非常口は、その機能を最大限発揮するに違いない。人に対する優しさや思いやり、想像力が感じ取れるデザインに出会えて、建築家 佐藤武夫の思想に少しだけ触れることが出来た気がしてうれしかった。

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来年3月にこのビルは解体され、JA諸団体は近くの敷地に現在建設中の新しいビルに移転する。耐震をはじめとする様々な新しい法律や社会的な事情でこうした建築が無くなっていくのは時代の流れとして仕方がないのかもしれない。open! Architectureというイベントが、思想ある建築の消えゆく現場を紹介する形になってしまうのも、「建築のまち・東京」の一つの側面だということだろう。

これから向こう4年間にわたり継続的に開催されるこのイベントが、“古いものを守ろう”ということではなくて、“昔何があったのか、何を考えたのか”を先ずは知るということから始めようとしている点に共感できた見学でした。

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